インタビュー

2021/09/01

清掃車に乗ってつかみとった課題、見えてきた未来。 【大東文化大学法学部 藤井 誠一郎 准教授】

自ら清掃職員としてごみ収集を体験することで、仕事の奥深さや職員の姿を臨場感いっぱいに捉え、“ごみ“にまつわる問題を浮き彫りにする注目の研究者がいます。大東文化大学法学部の藤井誠一郎 准教授です。

本来、地方自治や行政学を専門分野とする藤井先生が、ごみ収集の現場に密着するに至った背景とは何か。また、研究室を飛び出た藤井先生の目には、どのような課題や未来が映ったのか。今回のWOOMSインタビューでは、循環型社会に欠かすことができないごみ収集という仕事や現場を体験した研究者としてのお考え、想いなどを伺いました。

藤井 誠一郎(ふじい・せいいちろう)
広島県福山市生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士後期課程修了。行政管理研究センター客員研究員を経て大東文化大学法学部に着任、現在に至る。『住民参加の現場と理論――鞆の浦,景観の未来』(公人社)で2014年度自治体学会研究論文賞受賞。主な著書に,『ごみ収集という仕事――清掃車に乗って考えた地方自治』(コモンズ)、『ごみ収集とまちづくり――清掃の現場から考える地方自治』(朝日新聞出版社)など。

現場に飛び込み、実践から理論を導いていく。

地方自治や行政学の研究者である藤井先生が、なぜ、ごみ収集の現場を体験しようと思われたのでしょうか。

そもそものきっかけは、大学院の時に知ったある先生の存在でした。早稲田大学政治経済学部の故寄本勝美先生で、研究者として清掃車に乗った元祖となる方です。一般的な研究のイメージは様々な本を読み、理論をつなぐことで新たな知見を発見するものですが、それとは逆に、現場に飛び込み、実践から理論に迫るアプローチを寄本先生は行われました。「そんなリアリティあふれる研究もあるのか!」と自分の中にあった研究のイメージが全部ひっくり返ったわけです。

また、現場で汗をかいて頑張っている人には共感するものがあるし、現場から理論を導いていくアプローチが自分にとって非常にしっくりとくるものでした。実際に現場を見ることで理論と現実のずれを認識できますし、逆に実践を通じて、理論のほうがもはや古く、進化させたほうがいいという考えにたどりつくこともあります。ごみ収集の現場体験に至る背景には、そのように理論と実践の往復しながら研究していくアプローチがありました。

現場に飛び込むにあたって、“ごみ”というテーマを選ばれた理由は何ですか。

これまでの自分の歩みにも関係するのですが、私はさまざまな思いで38歳の時に社会人大学院生となりました。そこで出会った地方自治論に魅了されて研究を続け博士号を取得し、2015年に45歳で現在の大東文化大学法学部に着任しました。では、それまで何をしていたかというと、実は母校の大学の事務職員です。いわば先生方や学生さんの生活を裏方として支える仕事をしていましたので、同じように誰かを支える存在に光を当てたいとつねづね考えていたのです。

世の中にはいわゆる「スーパー公務員」と呼ばれる人たちがいますが、彼らが表舞台で脚光を浴びる裏側には、目立たない仕事を黙々と頑張り、ものすごく貢献をしている人たちがいます。その現場に密着して真理をつかんでいくことが、本当に地方自治を活性化させていくことにつながるのではないか。そういう想いから密着できる機会を探し求めたところ、「すぐに来ていいよ!」と言ってくれたのが新宿区のごみ収集、清掃の現場だったわけです。

その意味で“ごみ”というテーマを選んだのは、実は偶然なんです。しかし、研究者として誰にも負けないくらい現場を知り、そこから理論を導きたい気持ちで、喜んで現場に飛び込ませてもらいました。

身をもって知った、ごみ収集の奥深さ。

実際に、清掃職員としてごみ収集車に乗りながら、どのような体験をされたのでしょうか。

最初は2カ月だけの予定で、その間に“ごみ”を収集車に積む作業や清掃指導の同行など、いろいろ見せてもらいました。でも、ただお客さんのように案内されても、本当の現場の姿は見えてきません。そこでさらに半年延長させてほしいと頼み込んで、週に一回ではありますが、みんなと一緒に汗をかいて苦労するリアルな現場を体験させてもらいました。暑い時や寒い時、正月明けなど大変な時期も、一通り身をもって知ることができました。

現場に行く前に抱いていたごみ収集に対するイメージは、一般人の方と同じです。集積所に出された“ごみ”を収集車に積み込む単純作業で、いわゆる3Kと呼ばれる仕事だと想像していました。しかし、実際は思いのほか頭脳労働であり、単純作業に見えるがゆえの奥深さもある。清掃車に乗り込んで聞くことができた清掃職員の方々の業務に対する気持ち、そして本音には、“ごみ”の問題はもちろん、これからの地方自治を考えるためのエッセンスが詰まっていました。

ごみ収集という仕事は頭脳労働であり、奥深さがあるとおっしゃいましたが、具体的にはどのような点でしょうか。

清掃職員の方々は“ごみ”をつかんだ瞬間に何が入っているのかわかるんです。例えば、おむつが入っていればすごく重いし、収集してはいけない“ごみ”は臭いや音の五感で認識できます。また、経験を積んだ方は、収集車のタンクの詰まり具合まで頭に入っていて、あとどれくらい積めるかイメージできています。残念ながら私はそこまで至りませんでしたけど、日々、この仕事と向き合い続けてこそ身に付くスキルがやはりあるんですね。

清掃職員の方々がすごいのは、地図や地形、さらに地域のことが頭に入っていることです。例えば、「あそこの路地は入り組んでいる」だったり、「大雨で浸水したあの場所の先に、おばあちゃんが独りで住んでいたな」など、彼らは“ごみ”にとどまらない情報もつかんでいて、つまりは地域を熟知しているんです。「警察官と鬼ごっこしても自分が勝てる」なんて言っていたのが印象的でしたね(笑

また、普段ちゃんとしている収集所が荒れていたり、見慣れない変な“ごみ”が出始めると「この地域で何か起こっているんじゃないか」や「何らかの問題が生じているがゆえにごみとなって表れているんだ」と彼らは言います。ひょっとしたら何か犯罪が起こっているかもしれないわけで、自治体行政の最前線で情報収集するアンテナとしての役割を担うことができるのです。

ごみ収集という仕事の可能性と「人」の課題。

地方自治の観点から、ごみ収集という仕事にどのような可能性を感じられましたか。

ひとつは、清掃職員自身が環境学習の話し手となることですね。実際に現場で頑張っているからこそ資源循環社会について伝えたことがたくさんあるはずですから。次に、先ほど触れた自治体行政の最前線におけるアンテナとしての役割です。様々な住民ニーズをキャッチし、それを自治体の政策に活かしていくことが可能です。さらに、ごみ収集を通じて高齢者、特に独居老人の安否確認を行うサービスなども福祉部門と協力して行っています。今後はこのようなニーズが多くなってくると思います。このように、自分たちのリソースを新たな方向に展開していくことで、ごみ収集という仕事の可能性は拓かれていきます。

WOOMSが提供するサービスは、ごみ収集の現場に様々なアクションを起こすチャンスを与えてくれるものですね。収集ルートの改善や収集車の相互フォローによって、ひねり出された時間や余力を新たなサービスのほうに向けることができます。「小田急さんがごみ収集のシステム?」と最初はピンときませんでしたが、今はごみ収集を最適化する先にある沿線地域の付加価値を高めたいという想いを感じています。

ごみ収集の現場から地方自治の本質的な問題点を指摘されている藤井先生ですが、現状に対する課題意識や今後への想いをお聞かせください。

清掃業界で最大の課題は、「人」です。コスト効率のために人員が削減され、ノウハウが継承されないため、多くの現場が目の前の仕事をするのに精一杯になってしまっています。ごみ収集という仕事に新たな付加価値を加えようとしても、その余裕がないのです。行政コストの削減を住民が安易に評価してしまうことも一因だと言えます。それが、自分たちの毎日を支えるサービスを低下させているかもしれないのに、です。

数年前、ある地域が地震に見舞われました。その後の調査でお会いした清掃職員方は「月曜日から金曜日までは、何があっても清掃事務所に出て行くのが自分たちの使命だ」と言って、自宅をさておき、ごみ収集の業務を通常どおり行っていました。もし、ごみ収集を委託している場合に、「災害時は契約外だ」と委託業者が言ってしまうと、生活に大きな支障をきたしたでしょう。清掃職員さんがいないと資源循環型社会の実現も不可能なわけで、住民の皆さんには清掃業務はとても価値がある仕事だと再認識してほしい。自治体や清掃業界でも若い人を中心に意欲的な清掃員の方々がいますから、ぜひ、変化を期待したいですね。

広域行政の基盤になりうるWOOMSの可能性。

最後にごみ収集をサポートするWOOMSへのご期待や要望があれば教えてください。

WOOMSへの期待も込めて、もうひとつ大きな課題と感じていることを挙げるとすれば、地域間のフォローアップ体制です。座間市さんはすでにWOOMSを実証運用していますが、近隣の自治体で同じシステムを入れて相互に補完できることが望ましいと思います。例えば、災害時もそうですし、昨今はコロナ禍で清掃事務所がクラスターで閉鎖されるケースも考えられます。そういった事態に情報共有するだけで、近隣自治体が収集業務を補完しあえるWOOMSは、広域行政のプラットフォームとして大きな可能性を秘めていると思います。

今回、“ごみ”の中のDX(デジタルトランスフォーメーション)について考える機会を得て、またひとつ視野が広がりました。今後、WOOMSが既存の行政組織や住民の生活にどのような影響を及ぼすのかしっかりと見ていきたいですし、そのためにも引き続き、お互いの知見や情報を共有していきたいと思っています。

interviewer=正木 弾・中村 光德・田村 高志

editor=瀬戸 忠保

photographer=瀧田 翔

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